遺産分割とは
被相続人の相続財産はすべて相続人全員の共有財産となります。従って、預貯金などは特定の相続人が勝手に引き出して使うことが出来ません。それは銀行などが誰の財産なのか確認出来ない段階では、相続トラブルを懸念して預貯金の出納を原則として凍結してしまうからです。
また所有関係を確定させなければ不動産の所有権名義を登記することも出来ません。
このような事態を回避するためには、誰がどの財産を引く継ぐのかを確定させる必要があり、これを遺産分割と言います。
遺産分割の方法
遺産分割を行なうためには、「遺言による遺産分割」「遺産分割協議」「遺産分割調停」「遺産分割審判」の4つの方法があります。
遺言による遺産分割
被相続人は、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができます。遺言が存在して、相続人・相続内容が定められていればこれに従わなければなりません。
しかし、相続人全員の合意があれば協議により、遺言とは異なる相続分を定めることが出来るとされています。
遺産分割協議
相続が発生した際、被相続人による遺言書がない場合に相続人全員で遺産分割に関する話し合い(協議)をおこなうことです。相続人同士の話し合いで、遺産の分割方法や、誰が何を相続するかを決定します。
未成年の法定相続人がいて親も同様に法定相続人である場合、親とは利益相反の関係になりますので、家庭裁判所に申し立てて特別代理人を選任してもらいます。特別代理人は未成年者の立場になって遺産分割協議や相続手続きを行います。
遺産分割協議書のイメージ
遺産分割協議は、相続人全員が集まって会議を開いて行うこともありますが、場合によっては、電話、SNS、LINEなどを使って行うこともあるかも知れません。しかし、最終的には結論を書類にして、相続人全員が署名し、実印で捺印し、相続人全員が保有するのが普通です。
この書類は、後々、不動産の登記や預貯金の解約の際などに証拠書類として使用するとともに、将来的にも意思決定の証拠として残ります。
遺産分割調停
遺産分割協議において相続人間では話し合いがつかない場合などに、家庭裁判所において、調停委員に間に入ってもらい話し合いによる解決を目指す手続きです。
遺産分割審判
遺産分割調停でも話がつかなかった場合、遺産分割審判に自動的に移行します。特別に審判申し立てをする必要はないので、そのまま調停員の指示に従うことになります。
遺産分割の仕方
現物分割
この家は長男が相続し、この預金は次男に、車は長女にあげようといったように、その名のとおり遺産そのものを現物(そのまま)で分ける方法です。
換価分割
相続財産を売却し、お金に換えて分割する方法です。お金を分けることになるのでどのようにでも分割が可能になります。
代償分割
土地や建物を長男が取得する代わりに、長女に500万円、次男に600万円支払うなど、相続分以上の財産を取得する代償として他の相続人に自己の財産(金銭等)を交付する方法です。
共有分割
不動産や有価証券といった遺産を、相続人間で共有する分割方法です。この方法を取ると、共有者の一人が死亡した場合に新たなその人の相続人が共有名義人として加わわるということになり、将来的な売却の際に、手続きが複雑になってしまう可能性があります。
特別受益
特別受益とは
特別受益とは、相続人が被相続人から受けた特定の生前贈与や遺贈などの利益のことを いいます。
- 生前贈与
被相続人が存命中に財産を受け渡すこと。
- 遺贈
被相続人の死後、被相続人の遺言によって財産を受け渡すこと。
特別受益の分だけ、実際の相続時に受け取れる額が少なくなることになります。 相続人間の不公平を是正する措置といえます。
相続人間の公平のため、被相続人が亡くなり相続が開始した時点の相続財産に特別受益分を持ち戻して加え、そのうえで各相続人への具体的な相続分を決めることを目的にしています。
特別受益は、被相続人から受けた贈与のすべてが該当するわけではなく、以下
のものに限られています。
遺贈
婚姻のための贈与
養子縁組のための贈与
生計の資本としての贈与
たとえば、結婚する際に親から持参金をもらった場合や住宅購入のために資金援助をうけた場合や事業を始めるための開業資金の援助を受けた場合などについては、特別受益の対象となる贈与に含まれます。しかし、子供を通常の扶養をする意味で渡す金銭などは贈与にはならないと考えられます。
特別受益計算上の評価額は、相続発生時点での評価額とされています。なお、元戻しの対象となる特別受益者は相続人に限られており、相続人以外の第三者に贈与がなされても、原則として、それは特別受益にはなりません。
特別受益の計算例
相続財産が3000万円
法定相続人は長男A、長女B、次女Cの3人
被相続人は、長男Aに対して1500万円の住宅資金援助を行い、長女Bに対して1200
万円の結婚資金の贈与を行い、いずれの贈与も特別受益にあたるものとします。
相続財産に加えて持ち戻し財産を加えてみなし相続財産を計算します。
この場合のみなし相続財産は、3000万円+(1500万円+1200万円)=5700万円です。
そして、各相続人の具体的相続分は、次のようになります。
長男A:5700万円×1/3-1500万円(すでに貰っている分)=400万円
長女B:5700万円×1/3-1200万円(すでに貰っている分)=700万円
次女C:5700万円×1/3=1900万円
特別受益の持ち戻し免除の意思表示について
被相続人が生前に、持ち戻しをしないでほしい旨の意思表示をしている場合は、持ち戻しをしない場 合ががあります。
意思表示に決まった方法はないとされていますが、遺言書など書面で行うのが望ましいと考えられます。
しかし、あまりに相続人間の不公平感を際立たせる特別受益の実施はいかがなものかと考えられます。相続人の間の関係性も十分考慮のうえでの実施が必要です。
公平な遺産分割のために
公平な遺産分割を行うためには、遺産分割協議の前に、特別受益の有無、つまり贈与等がなかったかを確認する必要があるかも知れません。
もし疑いが払拭できない場合の確認の方法として、被相続人や受贈者が持っている贈与契約書の有無 や税務署に対して生前贈与有無の情報開示請求を行うなどの方法が考えられます。