相続登記義務化とその回避制度(相続人申告登記)がスタート
土地・建物など不動産を相続によって取得した場合は、所有権の移転登記をします。従来、登記は義務制ではなかったためもあって、登記せず放置されるという事例も多くありました。登記事項証明書(登記簿)をとってみると祖父など前の世代の名義になっているケースがあります。
現在、日本には所有者不明の土地が約2割ほどもあると言われています。このため、公共事業や都市開発事業、不動産取引、災害時などで支障が出ていることが報告されています。
このような事態が拡大することを懸念して、法改正により、令和6年4月1日から相続登記が義務化されました。法改正により、不動産を取得した相続人に対し、その取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をすることが義務付けられました。そして、正当な理由がないのに、そのまま登記申請をせず3年以上放置すると10万円以下の過料が科される可能性があります。
<相続登記の義務化について補足説明>
令和6年4月1日から相続登記が義務化されましたが、この法律は遡及適用となり、過去に相続した不動産も対象となり、この法律の施行日以前に被相続人から承継した不動産も令和9年3月31日(2027年3月31日)までに登記を行うことが求められています。
また、登記済の場合でも、住所変更、氏名変更、法人の移転等があった場合は、2年以内に登記申請が義務付けられました。この場合に違反があると5万円以下の過料が適用されます。
なお、相続登記の義務を履行するための簡易な方法として、相続人申告登記制度が新設され、同様に令和6年4月1日からスタートしました。
<相続人申告登記>
相続人が登記申請義務を簡易に履行することが出来るようにする観点から、新たな登記制度が設けられました。
➀所有権の登記名義人について相続が開始したこと
➁自らがその相続人である旨を申請義務の履行期間内(3年以内)に登記官に申し出ること
これにより登記申請義務を履行したものとみなすことになります。従って、過料に処される心配がなくなることになります。
※相続人が複数存在する場合でも特定の相続人が単独で申し出ることも可能
※法定相続人の範囲及び法定相続分の割合が確定していなくともよい
申出に当たって必要な添付書類は、申出をする相続人自身が被相続人の相続人であることが分かる戸籍謄本を提出すればよいとされています。
相続登記の具体的な方法
相続登記の申請
登記は、不動産所在地を管轄する法務局に、登記申請書に一定の関係書類を添付して申請します。自分で行うことも出来ますし、専門家の司法書士に依頼することも出来ます。
自分で申請する場合
法務局が必要書類の作り方、集め方など懇切丁寧に説明しているほか必要書類の様式のダウンロードや記入例などを入手することが出来ますので、個人で申請することもそれほど難しいことではありません。一度書類を整えて事前に予約し、法務局に相談に行けば、専門の相談員が丁寧に教えてくれます。
詳しくは法務局のホームページをご参照下さい。このページを丁寧に読んでいただけば自分で登記することは可能です。
専門家に依頼する場合
登記は司法書士が専門家として、依頼を受けて登記申請の代理を行っています。専門家に依頼する場合は、報酬等の費用が別途必要になります。
相続登記費用
不動産の登記をする際にかかる税金が登録免許税です。相続による所有権移転登記にかかる登録免許税率は、1000分の4(0.4%)です。
相続登記の登録免許税=課税標準×税率(0.4%)
課税標準は、固定資産評価額ですが、登記申請日により、次のように採用する固定資産評価額が変わりますので、注意が必要です。
| 登記の申請日 | 不動産価格の基準日 |
| 1月1日から3月31日 | 前年の12月31日現在の固定資産税評価額 |
| 4月1日から12月31日 | その年の1月1日現在の固定資産税評価額 |
具体的な登録免許税の計算方法(相続の場合)
計算例
1.次のような土地、建物を相続登記する場合
建物固定資産評価額 13,345,789円 ①
土地固定資産評価額 9,874,568円 ②
2.合計します。
➀+➁=23,220,357
3.1000円以下切り捨て
23,220,000
これが課税標準額(課税価格)となります
4. 課税標準額(課税価格)に税率0.004を掛けます
23,220,000×0.004=92,880
5. 1000未満切り捨て
92,000円 納付する登録免許税
そのほか司法書士に依頼する場合は、司法書士報酬等の経費が別途必要になります。
相続した土地を手放したい「相続土地国庫帰属制度」
親から土地を相続したが、「遠くに住んでおり、活用の計画がない」「周囲に迷惑をかけないようにきちんと管理するのは経済的に大変だ」などといった理由から、その土地を手放したいと思う場合、国にその土地を引き渡すことができる「相続土地国庫帰属制度」が令和5年4月27日から始まりました。
土地を相続したくない場合、他に相続放棄という手段がありますが、これは他の金融資産などの財産もすべて放棄することになるので、特別な理由がない限り現実的ではありません。
「相続土地国庫帰属制度」は、相続又は遺贈によって宅地や田畑、森林などの土地の所有権を相続した人が、一定の要件を満たした場合に、土地を手放して国に引き渡す(国庫に帰属させる)ことができる新しい制度です。
しかし、すべての土地が引き渡せる訳ではありません。通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地に該当しないことを国庫帰属の要件として求め、法令で具体的に類型化しています。
次に該当する土地については、国庫帰属の承認申請をすることができません。
- 建物がある土地
- 担保権や使用収益権が設定されている土地
- 他人の利用が予定されている土地
- 境界が明らかでない土地・所有権の存否や帰属、範囲について争いがある土地
不承認要件(審査の段階で該当すると判断された場合に不承認となる土地)
- 一定の勾配・高さの崖があって、かつ、管理に過分な費用・労力がかかる土地
- 土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地
- 土地の管理・処分のために、除去しなければいけない有体物が地下にある土地
- 隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地
- その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地
承認された土地については、国有地の種目ごとにその管理に要する10年分の標準的な費用の額を考慮して算定した額の負担金を納付しなければなりません。負担金算定に当たっては細かい算定式が定められています。
相続土地国庫帰属制度については、令和5年2月22日(水)から、全国の法務局・地方法務局の本局において、対面相談・電話相談の対応を開始しています。支局・出張所では相談は受け付けていませんので、ご注意ください。